LIFE WORK
東京銭湯PHOTOGRAPH
銭湯写真のはじまり
銭湯というテーマをなぜ撮影してるのか?という質問をよく受けます。私が銭湯の撮影を始めたのは2006年。当時の私は建築を専門的に撮るカメラマンを始めてまだ駆け出しで、建物を撮影する練習として、通っていた銭湯を撮らせてもらったのが始まりです。ちょうどその頃、杉並区の銭湯組合が80周年であり、この活動を話したところ、快く銭湯の撮影を許可してくださいました。組合の許可が下りたことで、同区内の銭湯はほとんど撮影することができました。撮影を重ねていくうちに、銭湯という被写体に興味を持つようになり、都内の銭湯を撮影するようになりました。
写真の持つ力
これまで撮影した銭湯は、約200軒。数字にしてしまうと味気ないのですが、組合のバックアップがなくなった状態での撮影は、この活動をドラマチックにしてくれました。突然、見たことも聞いたこともない男が、銭湯を撮影したいというのですから、ご主人にしてみれば、快く「どうぞ」など言えるはずもなく、「そんなことして何の意味があるんだ」と怒られたり、不審者と思われ通報されたり、と色々ありました。仕事がない日はアポを取りに行く日々でしたが、わずかな銭湯のご主人や女将さんが撮影を許してくださいました。そんな中、取り壊す前の銭湯を撮影をさせてもらうことがあり、仕上がった写真を見せにいくと、おかみさんが「いい記念になりました。」と笑顔と涙が混じった顔で喜んでくださいました。私の中で、写真を撮る意味が少しわかった日でした。それから私の東京銭湯の活動が本格化していきます。
営みを撮るということ
撮影を始めた当初、可能な限り「キレイ」に撮影することに注力していましたが、だんだんと、銭湯のいつもの姿を撮影したいと思うようになりました。それは、家に風呂がある家庭が一般的になった今も、人が集い、風呂に入り、また家に帰る。という日常があり、その日常を静かに支える銭湯の営みを、ありのままに写したい思いが湧いてきたからです。
写真を見て、銭湯に来る人がいる。写真が廃業してしまった銭湯を思い出すきっかけになる。東京銭湯PHOTOGRAPHの活動を通して、見ていただく人に、どんなきっかけをもたらすのかは、わかりませんが、写真家の役割の一端をこの活動で担えたらと、そんな風に思うのです。
※撮影当初1000軒営業していた銭湯のうち、東京都内営業している銭湯は約560軒(平成29年12月現在)